一章






ストライクとイージス。

二つのトリコールと真紅の機体は煌々と広がる宇宙の中で戦っていた。






「キラ!!」



互いにビームを撃ち合いながらもアスランは叫ぶ。
が、キラからの答えは無い。



先ほどからこの調子で、ただストライクはイージスへと撃つだけだった。

まるで、自分のことなど知らない誰かと戦っている気すらする。
いや、本当にそうなのではないのだろうかと思えるほどストライクの攻撃には躊躇いが無い。



と、ストライクのエネルギーが切れ、灰色の機体へと変わった。
それに迫るデュエルの姿が目に映る。


<!まずい!!>


迷っている暇など無かった。

フェイズシフトが落ちてしまえばデュエルの攻撃には耐えられない。
とっさにアスランはイージスを駆った。



「っ!」

毒づきながら、デュエルと間に入りストライクをイージスの鉤爪で掴む。



イザークや仲間の非難の声が聞こえるが、黙殺。


「キラ!!」

焦る気持ちと不安を抑え、アスランは懸命にキラに呼びかけ続けた。




***




今、格納庫内は騒然としていた。

理由はこれ。





「キラっ!空けてくれっ・・・・」
アスランの切羽詰った声が格納庫内に響いていた。






イージスから降りるや否や、すぐさまストライクに近寄って、そのままこの調子。

あのエースパイロット<アスラン・ザラ>が自分達の仇敵、ストライクに声をかけ続けている。
普段滅多に、というか全く聞かない氷の貴公子と呼ばれる彼の荒い声。
しかもあれでは、まるでストライクのパイロットと知り合いのようではないか。



混乱が広がる中、他のエースパイロット達も集まってきた。

彼らの顔にも困惑の表情が濃い。ただ、1人不機嫌な色の混じった人間がいたが。


彼らの中でも、アスランは冷静沈着。イザークに言わせて見れば、無愛想、澄ました顔が気に食わない、だそうだ。
そんなアスランが取り乱しているのを見ると、アスランも人だったんだなと少し思ったニコルだった。
しかしそれは傍らの二人も同じらしく、不機嫌な中に驚きが混じっていた。
もっともそれは、ストライクのパイロットに関しても、だったが。






そんなザフトの人達のことなど無視し、アスランは懸命にキラへと呼びかけていた。

ふと、そこへ・・・・








「キラ様?」






場違いな声が何処からとも無く聞こえた。




「ラ・・・・ラクス!?」




驚くアスランを軽やかに無視し、ストライクに近づくとハッチに手をかけた。




「・・・・・・・これは・・・・アスラン、離れてください」

「・・・・・は?・・・ラクス?」

「いいですから」




アスランの戸惑いに有無を言わせぬ口調で言い、ラクスはハッチを見つめる。



「出てきたらいかがですか?」




「・・・・・・・・」




ストライクからの返答は無い。









「エンディミオンの鷹。ムウ・ラ・フラガ様」









その言葉に静かになっていた格納庫内が再びざわついた。
しかし、ラクスは気にすることなく続ける。





「お話をして頂きたいのですけれども・・・・キラの事で」





最後がかなり重い言い方でラクスはニコリと笑った。











「フゥ・・・・・」

微かな溜息が聞こえたかと思った後、ストライクのハッチが音を立てて開かれる。





――――プシュウ・・・・・・




出てきたのはやや大柄な軽い感じの男。


「いやぁ〜・・・・・お嬢ちゃんには参ったね」


手を上げて苦笑するフラガに、ラクスは意味ありげな笑みを浮かべた。










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