不思議な巡りあわせで
「ありがとうございました」 返してもらった服に身を包み、バルトフェルドさんにお辞儀した。 その後ろにはイザーク達がいて、もう一度小さくお辞儀した。 「じゃあ…」 「またな…」 イザークは静かに言葉を返したけど、どこか悲しそうに感じるのは自分だけなのかな… そう思ってじっと立っていると、突然寂寥感が込み上げてきた。 何? がんがんと耳元で大音響を響かせられたように頭が痛い。 やめてっ…! 言った瞬間、それは唐突に消える。 代わりに脳裏に映ったのは、誰かが悲しそうな微笑を浮かべる姿。 目頭が熱くなって、泣いてしまいそうで。 どうしてっ… 何なのだろうか? どうしても、思い出せない。 でかかっているのに出ない。 大事なものがあるはずなのに。 手を伸ばしても、自分の手はその記憶に触れることができない。 自分の記憶なのに。 否、違うんだ… 思い出せないのは、私が怖がっているから… 記憶を取り戻すことを私は怖がっている…? 何故…? でも怖がってばかりじゃ手に入れられるものなんて…ないっ… ふと、目の前を白いものがよぎった。 桜…? …違うこれは… 「雪…?」 手を差し出すと、白い花びらのような雪が手の平に落ちて、消えた。 白い花… 目の前に白いものが落ちてきて、イザークは顔をあげた。 「…雪か…」 初めて地上で見る雪… 触れれば冷たいのに、その存在はそれだけを残して消える。 一瞬しか分らない存在。 それは、レイと同じかもな… ふと、そう思った。 おそらく、もう二度と会わないだろうと思ったから。 自分はプラントの人間だ。 そして、軍人。 だから、地上にいるわけにも行かない。 任務の為にここを離れるのは確実だ。 そうなればレイと会うことはもうないだろう。 まるで、見納めのようにイザークは視線をレイへと向けた。が、 「…?…」 立ったまま動かないレイにイザークは訝しげに思って近づく。 手の平を見つめる瞳は、どこか遠い。 そのまま雪のように消えてしまうような気がして、イザークは叫んだ。 「レイ!」 「…違う…」 急に空を見上げて、ぽつりと呟く。 その声はこちらに向けたと言うより、ただ言っただけのように聞こえた。 「…あの日は…桜が…舞ってた…」 「レイ…?」 イザークがかける声は耳に入ってなかった。 だって私は… 「レイじゃない……キラ……」 世界にひびがはいる音がどこか遠く聞こえた。 ぐらりと視界が揺れる。 刻まれた刻印のように、忌まわしい記憶と共に呪詛にも似た叫びが耳の奥に木霊する。 『あんた、自分もコーディネーターだからって、本気で戦ってないでしょう!!』 聞こえたのは自分に向けられた慟哭の叫び。 『なぜお前が地球軍にいる!!』 懐かしい人が…私に言った言葉。 苦しくて、でもどうしようもなくて… 両手で胸元を押さえた。 重い。 なんだかとても息苦しかった。 悲しくて… つらい… それはなぜ…? キラ その言葉にイザークはハッと目を見開いた。 「お前…!」 イザークが驚くのを横目に、キラは宙を見つめていた。 その瞳は今を見つめていない。 その様子に嫌な予感がしてして思わずイザークは走り寄って叫んだ。 「”キラ”!」 その瞬間、キラは眠りから覚めたようにハッと目を見開いた。 「っ…」 視界がクリアになり、呼吸が元に戻る。 汗ばんだ皮膚がじっとりと濡れていて、気持ちが悪い。 「…私は…キラ・ヤマト…?」 思い出したくなかった… ふっと、そのまま意識を失ったキラを腕に抱き止めたイザークの瞳は困惑に満ちていた。 「”キラ”…だと…?」 イザークの胸に一瞬不安がよぎる。 レイ、いやキラが自分の手をすり抜けていってしまうような気がして。 ―…お前は…記憶を取り戻したのか…? ―…その瞳に…何を見ていたんだ…? 「おい!イザーク!」 慌てて駆け寄ってきるディアッカを一瞥した後、イザークはキラと言った少女を強く抱いた。 まるで、どこか遠くへ行きそうな者を引き止めるように。 「キラ………」 その名を呼んでも、彼女はその瞳を開けることはなかった。 |
あとがき
やっと、途中まで書き終りました…
長かった…一気に二話分を作り上げたので目が痛いです…
後二話で終了予定…頑張ります;;