不思議な巡りあわせで 





静かにコーヒーを飲んでいると、バルトフェルドが目を細めて言う。



「一つ聞きたいんだけど、キミが記憶をなくしたのはいつだい?」



和やかだった雰囲気が突然厳しくなって、レイはびくっと震えた。





「…2週間前ですけど…」


「2週間前だと…?」



それに反応したのはイザークだった。



「…!、おい、まさか…!」


「え…?」


ついで反応したのはディアッカだった。
何故二人が反応するのか分からずレイはおろおろするばかりだ。




「………」




誰も何も言わない。



何なんだろう…?

レイはおびえながらもバルトフェルドの目を真っ直ぐに見つめた。




「どういうことですか?」




良い瞳だ。
真っ直ぐで意志の強い眼差し。

それを奪う可能性のあることを自分がするのが心苦しく感じた。
だが、奪うとは限らない。

彼女にかけるしかないな…

つと目を伏せて再び上げた時、バルトフェルドは少女を射抜くような視線で見つめた。

ごくりと彼女の喉がなるのが見える。

そしてその重い口を開いた。







「…キミはストライクのパイロットだな」










「…え……?」





初め言われた時、何のことなのかさっぱりわからなかった。

ただみんなの雰囲気からしてよくないことなのだろうと感じる。


「キミは覚えているはずだよ。きたまえ」


キィ…

ドアが開く音がして、横を見た。




「……」


「あなたは…」




部屋に入ってきた人物をみて、レイは目を見開いた。




「なぜ貴様が!!」


イザークが叫び、ディアッカも声を上げた。





「彼の名はアスラン・ザラ…」



バルトフェルドがどこか緊張した面もちで言った。

しかし、レイはそれに気付かない。
なぜなら目の前に現れた少年を食い入るように見ていたから。


少年はレイをじっと見つめたまま、形の良い唇を動かした。








「…キラ」




優しい声音。
懐かしい…耳に心地よいその声に、自然と言葉が溢れた。




「……アス…ラン…?」




世界にひびがはいる音がどこか遠く聞こえた。


ぐらりと視界が揺れる。

刻まれた刻印のように、忌まわしい記憶と共に呪詛にも似た叫びが耳の奥に木霊する。





『あんた、自分もコーディネーターだからって、本気で戦ってないでしょう!!』





自分に向けられた慟哭の叫び。




『なぜお前が地球軍にいる!!』




懐かしい人が…私に言った言葉。
苦しくて、でもどうしようもなくて…

床に膝をついて、両手で胸元を押さえた。

重い。


なんだかとても息苦しかった。






『……はいずれ私が結婚する方ですわ』





悲しくて…

つらい…

それはなぜ…?










「キラ!!」




ガクンと揺さぶられ、ハッと目が覚めた。

視界がクリアになり、呼吸が元に戻る。
汗ばんだ皮膚がじっとりと濡れていて、気持ちが悪い。




「っ…」




目の前には藍色の髪の少年。


違う。
アスランだ…


そこでハッと気がついたように、ぴたりと動きを止めた。




「…あ…ぁ…ぁぁぁっっ!!!」






やめて、近寄らないで




衝動的に目の前の少年を突き飛ばし、懐から銃を抜き取った。




「!!」












くそ…こんなことになるとは…

アスランは心の中で自分を叱咤した。

うつむいて肩を震わせているキラに近寄る。が、



「こないで!!」



キラに叫ばれ、立ちどまった。



手に握られた銃がこちらを向いたが、銃口は震えて焦点が定まっていない。


これなら取り押さえることもできる、がそんなことをすればキラが傷つくかもしれない。






…キラを傷付けたくはない……






二重の重圧にアスランの額に汗が浮かんだ。



動けない数秒の時間が長く感じる。
だがその均衡が崩れた。


キラが動いたのだ。


そしてゆっくりと銃口をこめかみへと突きつけた。




「…!」




うつむいたままだった顔を上げた先にあったのは、頬に流れるキラの涙。




「全部思いだした…」




悲しげに微笑んだその顔は儚げで、キラが消えてしまうような気がしてアスランは声を上げた。




「キラ!!」




キラは首を左右に揺り、静かに見つめ返した。




「…ごめんね…アスラン…」




キラは静かに瞼を閉じた。

黒光する銃のトリガーにキラの細い指が掛かる。



そして、力が込められた。






ドンッッ!!






一発の銃声が緊迫した部屋に、どこまでも広く響いた。






あとがき
やっとこさアスキラverへ…いい加減運命の方のもupさせたいところ…




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