不思議な巡りあわせで






目の前には豪勢な建物。


後ろには軍人。


周りにはジンと思われる機体。





八方塞がりで、レイは再び大きなため息をついた。




こんな所に連れてこられるなんて思わなかった。

相手はお礼がしたいと言うけれど、自分は早くカガリのいる場所に戻らなくてはいけないのに。

これでは早く帰れないかもしれない…

おまけにその相手はカガリ達と敵対する軍の、しかも砂漠の虎と呼ばれるザフト軍の隊長、アンドリュー・バルトフェルド。
まずいことこの上ない。



空を見上げると、来るときは空色だった空は、すでに藍色に染まっていた。








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レイは相手の強引さとそれを断りきれない自分に呆れ、ないまぜになった息を吐き出した。

兵士ばかりいて緊張する。

だが、外が豪勢なわりに中は質素で落ち着いた雰囲気で少し緊張は薄まった。


すると、先を進むバルトフェルトが立ち止まる。



「お帰りなさい。アンディ」



と、出てきたのは美麗な女性。

肩が露出した服を着ており、大人の女性ならではの雰囲気を醸し出していた。



「アイシャ」

「なぁ〜に?」


首を傾げて見上げる様はその人の雰囲気とどこかあっていて、同姓の自分でさえドキッとした。

しかし、横目でバルトフェルドさんを見ると全然平気なようで、慣れた様子で話しかけていた。



「この子に似合う服を見繕ってくれないか?」


「あらあらー。さ、こっちにいらっしゃい」




ここにいる人はみんな強引というか、はっきりとしているというか……


抵抗する暇さえなく、レイはアイシャと呼ばれる女性に腕を引っ張られた。






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あれよあれよというまにいつの間にかレイは風呂に入れていた。

ふんわりと良い香りのするお風呂で、水面に浮かぶ花がゆらゆら揺れていた。



こんなお風呂に入ったのは初めてだったから、少し嬉しかった。

と言っても記憶が無いから分からないのだけど。

そう、自分には分からない。


この世界のことも

自分自身のことも


否、分ろうとしなかったのかもしれない




急に花やいだ気分がなくなって、静かに水面を見つめた。






「…っ」





不意に浮かんだのは深緑の瞳の少年。



君は誰なの…?


懐かしいけれど悲しい…












「そろそろ出る?」



ドアの向こうから声がして、沈んでいた意識が一気に浮上してきた。






「…っはい!出ます」





とっさにだした声は上擦っていた。

そのまま何も考えないようにお風呂からでた。










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