トラベラー
second day 〜1 |
私はここにいる? 本当に私はここにいるのかな…? 疑問は頭の中で消えた。 徐々に力が抜けていく体。 指先さえぴくりとも動かない。 どうして…こんなことになったんだっけ。 危機的状況にも関わらず、倒れる自分を冷静に眺める自分がいた。 私は… 誰…だったんだろう… はっきりとしない混濁した意識の中、私の意識は薄れていった。 「…だから…どうして俺が行くんだ…」 ぶつくさと呟いて彼は自分の跨る馬に視線を送った。 燃えるように赤い毛並みの馬だ。 筋肉は引き締まっており、一目で名馬だとわかる。 名をイージスと言う。 そしてそれに騎乗しているのはアスラン・ザラという名の青年。 ここ、プラント王国の王子である。 イージスは主の視線を受けて、ぶるると呆れたように鼻を鳴らした。 「お前までそう言うのか…」 はぁ…とため息をついて、アスランは目の前に広がる森林を見た。 つい先ほど、光が落ちてきた。 との訳の分からない通報があり、王子でもあり、騎士団長でもある自分が行くこととなった。 当初は騎士のイザークが行くはずだったのだが、用事があるから駄目だといい、その他行けそうな人間は全て駄目で。 いい加減辛抱強いアスランでも苛々してしまうのであった。 そして、結局自分が行くことになったのだ。 というか騎士の仕事以外の用事って何なんだよ… 呆れてもう何も言えない。 まあ過ぎたことを言ってもな… 仕方なくアスランはその光が落ちた場所へと足を進めた。 辺りには普段鳥達がさえずっている筈なのに、何の音も聞こえない。 訝しみ、数歩足を進める。 だが、光が落ちたとされる場所に近付いていくと、ざわめきが聞こえてきた。 森特有の音。 鳥達が鳴いているようだ。 そろりと静かに地面に足を下ろした。 が、その瞬間イージスが駆け出した。 「うわっ!」 手綱を持っていたせいで、イージスに引き摺られる状態になった。 「くそっ…どうしたんだ?」 思わず毒づくが、さっとイージスに走り乗り手綱を思い切り引く。 ヒヒーン!! ざざ…と砂埃を立ててイージスは止まった。 「どうしたイージス…お前らしくない…」 そうするとイージスが未だにに先を見つめていることに気付いた。 アスランもつられて視線を送る。 「?」 ぼんやりと淡い光が辺りを満たしていた。 その中心に人影のようなものが見える。 ふと、光が薄らぎ、一瞬閃光がはしった。 「…!」 目を開いた先にいたのは、小柄な女性の姿。 にわかに信じがたいが、その人物が光を発している正体だったようだ。 栗色の髪が広がっている。 近くに行くと、その女性の姿がよく見えた。 自分と同じ10代の少女だ。 人形のように真っ白な肌。 でも頬はうっすらと上気して赤みがかっている。 ふくよかな唇。 「…」 ……って何やってるんだ… ぶんぶんと頭を振り思い直すと、静かに少女に近づいた。 警戒のため腰の剣に手を当てる。 「…生きて…いるのか…?」 やっと手の触れる位置まで来て、アスランは少女の頬に手を当てた。 が、反応はない。 耳を口元に近づけ、呼吸を確かめる。 息はしているようだ。 でも目を覚まさない。 「気絶しているだけなのか…?」 ふと、彼女の口元に目がいった。 ふっくらとして感触の良さそうや唇。 その色に、自然とアスランの顔が近づいた。 「!!」 ハッと気づいて顔を上げる。 何なんだ…今のは… 恐る恐る少女を見ると少女はまだ眠ったままだった。 そのことにホッとし、アスランは少女の体を抱える。 このままここに置いていくわけにはいかない。 そっとイージスに乗せ、自分も跨ると、アスランはその場をあとにした。 |
あとがき
やっと・・・;;
つかアスランの行動が不可解・・・;