ミエナイ未来
「なんだと!!…キラたちが…?!」 キラたちの家に襲撃があった、との知らせを受けたカガリたちは、わが耳を疑った。 どうしてキラ達が…? アスランもまた、理解しがたい情報に戸惑いを隠せずにいた。 主の困惑した怒声に、報告を行いにきた兵士は戸惑いながらも言う。 「マルキオ導師、子供数十人、女性の二人の遺体を発見」 「……………」 アスランは、…?と変な感じがした。 「キラは…?」 ぽつりと呟くと、兵士は身を震わせて、俯いた。 「キラ様は…行方…不明です…」 「!?」 「なっ!!どういうことだ!?」 「ですから、キラ様だけは、見つからなかったのです。ご自宅にも向かわせましたが、そこににも…」 キラが…いない…? 生きているということか…? まだ希望はある。 アスランはカガリに目配せをする。 カガリはわかった、と頷いて、兵士にキラを探すように命じた。 しかし、 「その必要はないよ」 「?!」 ドアの方に視線を向けると、壁に寄り添ってキラがこちらを見ていた。 それに気づいたとき安堵して、アスランはほっと息をついた。 「キラ!!!お前、何やっ…………大丈夫…か…?」 怒鳴ろうとしてやめたのは、キラの様子が尋常ではなかったからだ。 よく見ると服は血まみれで、黒い服にべっとりと染み付いていた。 「何が?別に平気だよ。…服以外はね」 青白い顔に奇妙な笑いを浮かべて、カガリたちを見つめる。 「キラ!!何処が大丈夫なんだ!!」 アスランが叫んで近寄り、手を出した。 が、 パシィン… その手は、キラの手によって阻まれていた。 「っ…キラ?」 ショックを隠せないでいるアスランに、キラは無表情で話した。 「久しぶり、そしてさよなら」 「…え…? 二人が困惑するのを楽しむかのように、キラはまた笑った。 どこか癇に障る嫌な笑みで。 「どうしたんだよ、キラ?!」 「どう?どうもしないよ。」 …まあ、君達が気づくわけないけどね ぼそりと言ったその言葉は、アスランの耳には聞こえていた。 「俺達が何に気づかなかったって言うんだ?!」 「聞こえたんだ?わからないよ、君には」 冷たい言葉にアスランたちはぞっとした。 キラはこんな物言いはしない。 だけど目の前にいる人物は確かにキラなのだ。 口元に、何処か諦めにも似た笑みを浮かべたまま、キラは何も言わない。 ふと、数歩進み、アスランに近づいた。 「…………」 静かにアスランの頬に触れる。 その手はひんやりと冷たかった。 まるで体温を忘れてしまったのかのような冷たさ。 その冷たさに、ぞくりと背筋に嫌な汗が流れる。 どこか愛しそうに頬を一撫ですると、キラは一瞬懐かしむように目を細めた。 そして、口をアスランの耳元に近づけて、話した。 ………… 「え……?」 アスランは呆然とキラを見つめた。しかしキラは何も言わずにきびすを返す。 「キラ……?おい、アスラン!」 カガリの声でハッと目が覚めた。 「キラ!!」 その声にキラは歩みを止める。 「…さようなら。アスラン、カガリ」 それだけしか、言わなかった。 「キラっ!!」 叫んで、アスランはキラを追いかけて走り出す。 キラの前方に兵士がいるのをみて、声をかけた。 「彼を止めてくれ!!」 そういった瞬間、キラの肩が震えたことに、アスランは気づかなかった。 その言葉が、自分にとってキラの行動を、悪い方向に導くとも知らず。 アスランの声に、戸惑いながらも兵士二人はキラの前に立ちふさがる。 「うるさいよ…」 呟き、キラは助走もなしに走り出す。 一気に兵士との距離をつめ、驚いたまま硬直した一人目を蹴り飛ばす。 息をつく暇もなく、もう一人を回し蹴りで昏倒させた。 「キラ…?」 何だこれ…? 自分の見ているものが信じられない。 本当に、これが…キラ? アスランが呆然と突っ立っているのを見て、キラはその整った顔立ちを怒りに染め、睨みつけた。 「何で、君なんかが………僕の……」 こんな顔のキラは、見たことがなかった。 そもそも最近は、怒る顔以上に笑顔すら、見たことがなかった。 日々カガリのボディガードを勤め、休むひまもなく。 だから、キラとも会っていなかった。 今日は前あってから何ヶ月だ? それすらわからなくなるほどに、二人は久しく会っていなかった。 「…俺の…せい……なのか…?」 「そう思いたければ、勝手に思えばいい。僕には関係ない」 「キラ!!…お前は何をするつもりなんだ」 「……」 ぎりっと歯をかみ締めて見つめるアスランを横目に、キラは窓際に小さく呟いた。 「shadow」 ドオオォオンッッッ… 「っ…?!」 壁が破壊され破片が落ちてくるのを、とっさに腕でガードした。 キラは…? 白い埃がまい、視界がぼけて見える。 目を凝らすと、キラの前に大きな影が見えた。 巨大な腕。 「MS…?」 アスランの呟きに、キラは答えた。 「そう、フリーダム」 漸く視界が開けると、そこには真っ黒な巨体が壁の外に立っていた。 「馬鹿な…これが…フリーダムだって…?」 信じられない思いで、それを見た。 真っ黒、だった。 確かにフォルムそのものは、フリーダムだろう。 だが、以前のような蒼い空のような美しい色合いは、そこにはなかった。 「黒いのがそんなに変?僕は気に入ってるけどね。…死神みたいで」 「キラ!まさか…お前が…フリーダムを…」 「そう、僕が色を変えた。これから人を殺すのに蒼じゃ変じゃない?」 くすくすと楽しそうに笑って、黒いフリーダムを撫でた。 「キラ…」 どうしたんだ…? 「俺の知っているキラじゃない…目を覚ますんだっキラ!!」 「じゃあ君の知ってる”キラ”って何?お人よしで、すぐに泣いて、君に助けを求める人?」 小馬鹿にしたように言われ、頭に血が上る。 「何でそうなるんだ!!…お前は、誰にでも優しくて…こんなこと…」 「する奴じゃない?…馬鹿みたいだね、アスラン」 「っキラ!」 叫ぶアスランを横目に、さっとコックピットに乗り移る。 「…そうそう…さっき部屋で言った言葉。忘れないでね…」 「キラアーッ!!」 アスランの叫びに、キラは一度も振り返らなかった。 さっき言った言葉… キラは俺に言った。 僕を止めないと、沢山の人間が死ぬよ。 どういう意味なのかわからないまま、冷たい風が吹きすさぶ窓辺に近づいた。 あの黒いフリーダム。 それは決別の意思の現われなのか? キラ… 俺には、お前がわからない… 昔は、どんな隠し事をしたって、すぐにわかった。 でも、今は… それとも、昔ならわかったのか…? しかしその疑問を振り払う。 そんなはずはない、自分は… 「くそっ…………キラ……」 そんな風にキラの消えた場所をアスランを、眺め続ける人物がいた。 その人物は、キラが消えたことにある意味ほっとしていた。 自分にとって危険な存在だったから。 「………」 そして、部屋の中へ姿を消した。 黒い機体がどこかに飛んでいった。 その話は、瞬く間にオーブ中に広まった。 思いは届かない。 それは、何故なのか。 一方は拒絶し、一方は理解できず。 二人はまたも道を違える。 今度は自らの意志のままに。 |
あとがき
黒キラ…?いきなり降臨しました。
次からはどうなるのか自分にも謎です…;;( △ ;)
アスランにめちゃくちゃ厳しい…